(1)7枚入り・30枚入り大容量パックの現状::
① LOFT、ドラッグストアで売れているのは、7枚入りと30枚入り。これらオフラインショップでは、7枚入り・30枚入り(以下、大容量パックという)を扱わずに売上は取れない。
② 現時点大容量パックは、まだまだインバウンド向けというよりは日本人の“日常使い・節約志向”のユーザー層に向けたもの。理由は、節約志向の高い日本人消費者が好む詰め替え(リフィル)的認識で評価されている・・・大容量パックで圧倒的市場を押さえるルルルンの戦略でもある(後述(2)「仕掛け人とその戦略」要参照)
③ インバウンド市場ではまだこれら大容量パックは大きくは注目されていないが、動き始めているとの認識を持つ業界関係者も出てきた
④ 海外有名美容フェイスマスクブランドの多くはまだ大容量パックに本格参入していないが、韓国メーカー大手MEDIHEALが対応を始めた
⑤ 美容フェイスマスクの評価の高い韓国であっても、高単価な個包装よりもコスパの高い大容量パックでの日常使いが注目されつつある
⑥ 中国消費者はまだそこまでの認識は持っていないが、もともと美容フェイスマスクの評価は高く、訪日旅行者による日本での大容量パック市場の人気ぶりを見て、且つ自身のコスパを考え、大容量パックを土産に帰国する可能性も出てきた。そのインバウンド土産をきっかけに、一気に中国市場で拡大する時期は近いと考えられる
(2)仕掛け人“ルルルン“とその戦略::
① 「ルルルン」の開発企業・・・(株)グライド・エンタープライズ(現在社名:Dr.ルルルン株式会社。参入当時の主業…広告代理店)は、2011年にフェイスマスクブランド「ルルルン」を立ち上げた。「今まで手の届かなかった高品質な化粧品を、すべての女性が使える価格へ」をモットーとする。現在、日本での販売枚数でNo1シェアといわれているが、大容量パックで地位を築いている
② ルルルンの販売政策・・・
<ブランディングに力>
・広告業者としての発想力を美容フェイスマスクで発揮
ⅰ)高保湿+低刺激を前面に・・・過剰機能より、コスパを考慮し、保湿と低刺激の美容フェイスマス
クに注目。保湿は圧倒的人気機能である。
ⅱ)「高機能・高価格帯」に偏るメジャーブランドや海外ブランドとは一線を画す。
ⅲ)「シートの質」「密着度」「液の量」など、基本性能の安定感に力点を置く。
<参入決断>
① 美容フェイスマスクが参入しやすい化粧品だった。美容フェイスマスクは顔に15分も美容液を乗っけるため、当然保湿効果はより実感しやすい。
② 世界の美容フェイスマスクの大手企業は韓国・中国企業であり、それもこの10年前で急成長を遂げた。その為、「ルルルン」メーカー(株)グライド・エンタープライズ(現Dr.ルルルン(株))でも参入に躊躇は少なかったと推測できる
<営業戦略>
① 大容量・低価格:「毎日使える」「コスパがいい」という安心感。1枚入りよりも7枚入りや32枚入りを主力商品とした
② 広告代理店お得意技のマーケティング論を展開し、日本人のリフィル好き(日日使う商品は少しでも安い方が良い、リフィルはコスパが良い、環境に良い、との消費者意識)は、新製品に対して抵抗なく受け入れる消費者(イノベータ層)が元々多かったと考える。イノベータ層だけでも大きな売り上げは取れるとの判断が働いたと思われる
③大容量ゆえの不安感「清潔感」対策・・・「清潔感」対策も、イノベータ層消費者がリフィルイメージで参入し、その間に清潔面での大きなトラブルもなかったためクリア。その後、様子見をしていたメイン消費者層(フォロワー層)が安心感を覚え一気に広がったと考えられる。
④ 前①②③の「コスパが高い」「安全」により、ドラッグストアも参入しやすかったとも想定できる。
⑤ 多くのメジャー化粧品メーカーは、美容フェイスマスクよりもスキンケア関係商品では「高級クリーム」や「高級化粧水」、またそれら製品に含む「差別化できる機能性成分開発」に注力していた。まして大容量パックに対し清潔感での不安感を持ち参入を躊躇。その隙間をつかれた
⑥ 広告代理店の得意技である、パッケージとネーミングでも成功した。
⑦ 「ルルルン」という明るい・リズム感あるネーミングとロゴ及びパッケージ。当時からSNSを意識した展開だった。
⑧ 色分けしたラインナップ・・・ピンク=保湿、青=くすみ対策、白=透明感・紫外線対策、赤=高保湿など、直感的に選びやすいパッケージ戦略を採用。
(3)大容量パックの今後と対策::
<韓国・中国市場の動き>
① 韓国美容フェイスマスク大手MEDIHEALは既に大容量パックをリリース済み。今後、本格的に韓国で大容量パック展開を行うと思われ、韓国消費者での認知度はさらに向上すると思われる。その結果インバウンド土産として「日本ブランドの大容量パック」が選ばれる可能性が出てきた。
② 中国人も、日本のドラッグストアでの大容量パックの陳列状況の壮観さに加え、MEDIHEALという美容フェイスマスクブランドの日本進出を見た場合、大容量パックに興味を示す時期が近いと推測できる。
③ 中国人が動き始める他の理由として、中国人自身が美容フェイスマスクを積極的に受け入れている。(*)しかし、現時点個包装中心であり、日常使いとして日日使用したいものの単価面から諦めている層が多い。しかし、大容量パックなら手が出る・・・との認識が生まれ始める。日本・韓国と同じ流れ。つまり、中国での大容量パック使用は夜明け前と考える
(*)中国での美容フェイスマスク市場規模は約6000億円になったといわれている。ちなみに日本は約700億円
④ 某中国美容フェイスマスク充てん機メーカーも、昨年7枚入りのマシン製造を始めた。このような機械メーカーが今後中国市場での大容量パック市場の拡大に向けて間接的にアプローチを始めると思われる
<新たなる大容量パック参入対策>
Ⅰ.清潔感・衛生面対策::
① 日本の製品は清潔との認識があり、その点をインバウンドでもそこは外さない
② 密封チャック付き容器等の検討
③ 取り出しやすさへの評価を得る。1枚ごとに正しく取り出せること
④ 7枚入りも用意し、30枚入りに対する衛生面を気にする層をカバーする。中国人がいきなり30枚入
りに移行するとはまだ思えない
Ⅱ.インバウンド対策::
① パッケージにQRコードを付け、使用方法、KOL等による説明を行う
② 日本の伝統と抗菌力の合わせ技対策・・・コメ発酵液を配合し、日本の伝統的酒製造技術の結晶である“日本酒”から生み出される“コメ発酵液”にある防腐効果(*)をPR。中国・韓国でも注目されている「天然原料」に「日本酒」は近いイメージであり、消費者は受け入れると考える
(*)コメ発酵液だけで100%防腐効果は得られないため、他の防腐剤との合わせ技が必要だが
③ イメージコピー展開案・・・
「最新美容成分×日本の伝統「日本酒」が生み出す力×清潔対策を施した美容フェイスマスク!」
Ⅲ.価格対策::
① 大容量パックで圧倒的市場シェアを狙う場合は、ルルルン、クオリティファーストの各30枚入り製品の価格に合わせる必要あり
② ただし、ルルルン等の大量販売実績のあるマスクと価格競争をしても意味がない。前Ⅰ.Ⅱ.を取り込み、30枚入りでの高単価層(*)でのシェアを取る戦略の方が良いと思料
(*)ルルルン高単価品 「青のルルルン」(32枚入り/500ml) 4980円(税込み)/楽天
③ インバウンドの主力“個包装”も展開。
個包装単価 500円~800円前後(税込み)の価格設定の場合、30袋購入換算=15000円~24000円にもなり、大容量30枚入り 4980円のお得感が際立つ
このような戦略・戦術を今の内に立ち上げ、7枚入り・30枚入り大容量パックと個包装製品の両立展開をする準備をしておいて損はない
以上
2025 年4月17日
株式会社アゼス